ITIL準拠のインシデント管理|体制構築から効果的な運用まで網羅した完全ガイド

システムの突発的な障害(インシデント)への対応に追われ、ビジネス機会の損失にお悩みではありませんか?効果的なインシデント管理は、単なる障害対応プロセスではなく、サービス品質と顧客満足度を維持・向上させるための重要な経営基盤です。本記事では、国際的なベストプラクティスであるITILに基づき、インシデント管理の定義から具体的なプロセスフロー、成果を出す体制構築、運用のコツ、そしてツール選定までを網羅的に解説します。この記事を最後まで読めば、インシデントによるビジネスへの影響を最小限に抑え、安定したサービス提供を実現するための具体的な方法論がすべてわかります。

目次

インシデント管理とは ITILにおける定義と目的

現代のビジネスにおいて、ITサービスの安定稼働は事業継続の生命線です。しかし、どれだけ万全な対策を講じても、システム障害やサービスの停止といった予期せぬ事態を完全にゼロにすることは困難です。こうした事態が発生した際に、ビジネスへの影響を最小限に食い止め、迅速にサービスを復旧させるための体系的なアプローチが「インシデント管理」です。本章では、ITサービスマネジメントのベストプラクティス集であるITIL(Information Technology Infrastructure Library)の定義に基づき、インシデント管理の基本的な概念、その目的と重要性について詳しく解説します。

そもそもインシデントとは何か

インシデント管理を理解する上で、まず「インシデント」という言葉の定義を正確に把握することが重要です。ITILにおいて、インシデントは「ITサービスの中断、またはITサービスの品質を低下させる可能性のある、計画外の出来事」と定義されています。単なる「出来事(イベント)」とは異なり、ユーザーがサービスを正常に利用できない状態や、その恐れがある状態を指します。

例えば、「サーバーのディスク使用率が80%を超えた」という通知は「イベント」ですが、それによって「アプリケーションの動作が極端に遅くなった」場合は「インシデント」となります。インシデントは、ビジネスの生産性や顧客満足度に直接的な影響を与えるため、迅速な対応が求められます。

具体的なインシデントの例を以下の表に示します。

カテゴリインシデントの具体例ユーザー・ビジネスへの影響
ハードウェア障害業務サーバーが起動しない、ネットワークスイッチが故障した社内システムが利用できず、業務が完全に停止する
ソフトウェア障害基幹システムでエラーが多発する、Webサイトが表示されないデータの整合性が損なわれる、顧客が商品を購入できない
パフォーマンス低下アプリケーションの応答が著しく遅い、ファイルのダウンロードに時間がかかる従業員の作業効率が低下する、顧客満足度が低下する
セキュリティ関連マルウェア感染の疑いがある、不正アクセスの兆候が検知された情報漏洩のリスクが発生する、企業の信頼が失墜する

ITILが定義するインシデント管理の目的と重要性

ITILが定義するインシデント管理の最大の目的は、「可能な限り迅速にITサービスを正常なここでいう正常な状態とは、インシデント発生前のSLA(サービスレベル合意書)で定められたレベルを指します。状態に復旧させ、ビジネスへの影響を最小限に抑えること」です。ここで重要なのは、インシデントの「根本原因」を追求することではなく、あくまで「サービスの復旧」を最優先する点です。根本原因の特定と恒久的な対策は、後述する「問題管理」という別のプロセスで扱われます。

例えば、Webサーバーがダウンした場合、インシデント管理の担当者はまず予備サーバーへの切り替えやシステムの再起動といった応急処置を行い、サービスを復旧させます。なぜサーバーがダウンしたのかという詳細な調査は、サービス復旧後に行うのが基本的な考え方です。

サービスの停止時間が長引けば長引くほど、売上機会の損失、顧客からの信頼失墜、ブランドイメージの悪化といったビジネス上の損害は雪だるま式に膨れ上がります。インシデント管理は、この損害を最小限に食い止めるための「消防活動」に例えられ、ビジネスの継続性を担保する上で極めて重要なプロセスなのです。

インシデント管理がビジネスに与えるメリット

効果的なインシデント管理体制を構築し、適切に運用することは、IT部門だけでなく企業全体に多くのメリットをもたらします。その効果は、顧客、従業員、そしてビジネスそのものに及びます。

インシデント管理がもたらす主なメリットを、対象ごとに整理しました。

対象得られるメリット詳細
顧客・ユーザー顧客満足度の向上サービス障害が発生しても迅速に復旧するため、ユーザーの不満やストレスを最小限に抑えられます。安定したサービス提供は、顧客からの信頼獲得に直結します。
ビジネス・経営機会損失の低減と売上の維持ECサイトの停止やオンラインサービスの利用不可といった事態を素早く解決し、売上への直接的な打撃を防ぎます。ビジネスの継続性が確保され、安定した収益基盤を維持できます。
従業員・組織社内生産性の向上社内システムやツールの障害が迅速に解決されることで、従業員の業務停滞を防ぎます。「ITトラブルで仕事が進まない」という状況をなくし、組織全体の生産性を高めます。
IT運用サービスの可用性と信頼性の向上インシデント対応のプロセスが標準化・効率化されることで、サービスの平均復旧時間(MTTR)が短縮されます。結果として、サービスの可用性が高まり、信頼性の高いIT基盤を構築できます。
IT運用ナレッジの蓄積と属人化の防止インシデントの対応履歴や解決策がナレッジとして蓄積されるため、同様のインシデントに迅速に対応できます。担当者個人のスキルに依存しない、組織的な対応力を強化します。

このように、インシデント管理は単なる「障害対応」ではなく、ビジネスの価値を守り、成長を支えるための戦略的な活動であると理解することが、成功への第一歩となります。

インシデント管理と関連用語の違いを解説

インシデント管理と関連プロセスの違い vs 問題管理 (目的の違い) ! インシデント管理 迅速な「サービス復旧」 (応急処置・対症療法) VS ? 問題管理 根本原因の「特定と解決」 (再発防止・根本治療) vs サービス要求管理 (対象の違い) ! インシデント管理 予期せぬ「中断・品質低下」 (マイナス・緊急性が高い) VS サービス要求管理 標準的な「提供依頼」 (プラス・計画的) vs 変更管理 (アプローチの違い) ! インシデント管理 正常な状態へ「戻す」 (事後対応・リアクティブ) VS Δ 変更管理 計画的に状態を「変える」 (事前評価・プロアクティブ)

インシデント管理を効果的に運用するためには、ITIL(Information Technology Infrastructure Library)で定義されている他の管理プロセスとの違いを正確に理解することが不可欠です。特に「問題管理」「サービス要求管理」「変更管理」は、インシデント管理と密接に関連しており、現場で混同されやすい用語です。ここでは、それぞれの目的と役割の違いを明確にし、適切なプロセス運用のための基礎知識を解説します。

インシデント管理と問題管理の違い

インシデント管理と問題管理は、ITサービスマネジメントにおいて最も混同されやすいプロセスです。両者の最も大きな違いは、その目的にあります。インシデント管理のゴールは「迅速なサービス復旧」であり、ビジネスへの影響を最小限に抑えるための応急処置的な活動です。一方、問題管理のゴールは「根本原因の特定と恒久的な解決策の実施」であり、インシデントの再発を防止するための根本治療的な活動といえます。

例えば、「サーバーがダウンした」という事象が発生した場合、サーバーを再起動してサービスを復旧させるまでがインシデント管理の範囲です。その後、なぜサーバーがダウンしたのか(メモリ不足、ソフトウェアのバグなど)を調査し、恒久的な対策を講じるのが問題管理の役割となります。重大なインシデントや、繰り返し発生するインシデントは、問題管理プロセスへとエスカレーションされます。

比較項目インシデント管理問題管理
目的ITサービスを迅速に正常な状態へ復旧させることインシデントの根本原因を特定し、再発を防止すること
活動の性質対処療法的(リアクティブ)根本治療的・予防的(プロアクティブ)
主要な関心事復旧までの時間(MTTR)の短縮根本原因の分析と恒久的な解決策の策定
具体例サーバーを再起動してサービスを復旧させるサーバーダウンの原因(特定の処理によるメモリリークなど)を調査し、パッチを適用する

インシデント管理とサービス要求管理の違い

インシデント管理とサービス要求管理は、どちらもサービスデスクが窓口となることが多いですが、その内容は大きく異なります。インシデントが「予期せぬサービスの中断や品質の低下」といったネガティブな事象であるのに対し、サービス要求は「ユーザーからの標準的な依頼」です。

具体的には、計画外の「サービス停止」や「品質低下」を扱うのがインシデント管理です。例えば、「業務用アプリケーションにログインできない」「ネットワークが遅い」といったケースが該当します。一方、あらかじめ定義された標準的なサービス提供の依頼を扱うのがサービス要求管理です。「新しいPCのセットアップ依頼」「ソフトウェアのインストール」「パスワードのリセット」などがこれにあたります。サービス要求は、通常、承認プロセスを経て計画的に実行されるため、インシデントのような緊急性はありません。この2つを明確に区別することで、緊急性の高いインシデントにリソースを集中させることができます。

比較項目インシデント管理サービス要求管理
対象予期せぬサービスの中断や品質低下ユーザーからの標準的なサービス提供依頼
性質計画外のネガティブな事象(故障・不具合)計画的で標準化されたポジティブな事象(依頼・申請)
緊急度ビジネスインパクトに応じて高い場合がある通常は低い(SLAに基づき処理される)
具体例PCが起動しない、メールが送受信できない新規アカウントの発行、マウスなど周辺機器の申請

インシデント管理と変更管理の違い

インシデント管理と変更管理は、IT環境の状態を変化させるという点で関連しますが、その目的とアプローチが異なります。インシデント管理は、サービスを「正常な状態に戻す」ための活動です。一方、変更管理は、ITインフラやアプリケーション、プロセスなどに対して「計画的な変更を加える」際の管理プロセスです。

インシデントの解決のためにシステムの構成変更が必要になる場合がありますが、その変更作業自体は変更管理のプロセスに従って実施されます。これは、無計画な変更が別の新たなインシデントを引き起こすリスクを防ぐためです。変更管理では、変更に伴うリスクや影響を事前に評価し、承認プロセスを経て、計画的にリリース作業を行います。つまり、インシデント管理は「正常な状態への復旧」を目的とし、変更管理はビジネス価値向上のための「管理された状態変化」を目的とします。

比較項目インシデント管理変更管理
目的サービスを正常な状態に復旧させることITサービスへの変更を安全かつ効率的に実施すること
トリガーサービスの中断・品質低下の発生新規サービスの導入、機能改善、インシデントの恒久対策など
主要な関心事迅速な復旧変更に伴うリスクの評価と影響の最小化
アプローチ発生した事象への対応(事後的)変更内容の事前評価と計画的な実施(事前的)

ITILに準拠したインシデント管理のプロセスフロー

Yes No ステップ1:インシデントの記録と識別 ステップ2:分類と優先度設定 ステップ3:初期調査と診断 解決? ステップ4 エスカレーション ステップ5:解決と復旧 ステップ6:インシデントのクローズ

インシデント管理は、場当たり的に対応するのではなく、ITILに準拠した一連のプロセスフローに沿って進めることが極めて重要です。体系化されたプロセスは、対応の抜け漏れを防ぎ、迅速かつ効果的なサービス復旧を実現します。ここでは、インシデントが発生してからクローズするまでの、標準的な6つのステップを具体的に解説します。

ステップ1 インシデントの記録と識別

インシデント管理プロセスの出発点は、発生した事象を「インシデント」として正式に識別し、すべての情報を記録することから始まります。この最初のステップが、その後の対応品質を大きく左右します。

インシデントは、利用者からの電話やメール、チャットボット、サービスポータル経由での問い合わせだけでなく、監視ツールが発する自動アラートなど、様々なチャネルを通じて識別されます。重要なのは、どのような経路で検知されたインシデントであっても、例外なくすべてを管理ツールに記録(起票)することです。「記録されていないインシデントは存在しない」という原則を徹底することで、対応の重複や見落としを防ぎ、後の分析やプロセス改善に不可欠なデータを蓄積できます。

記録するべき主な情報は以下の通りです。

  • インシデントの一意な識別番号(自動採番)
  • 報告者の氏名・連絡先・所属部署
  • インシデントの発生日時
  • 利用しているサービスや機器の名称
  • 具体的な事象(エラーメッセージ、症状など)
  • 対応チャネル(電話、メール、ポータルなど)

ステップ2 インシデントの分類と優先度設定

記録されたインシデントは、次に「分類」と「優先度設定」が行われます。このステップにより、対応の緊急性を見極め、最も適切な担当者へ迅速に割り当てることが可能になります。

分類(Categorization)
インシデントを、あらかじめ定義されたカテゴリに分類します。例えば、「ハードウェア障害」「ソフトウェアの不具合」「ネットワーク接続の問題」「アカウントに関する問い合わせ」といった分類です。正確な分類は、適切な専門チームへのエスカレーションをスムーズにし、後々レポートを作成してインシデントの傾向を分析する際にも役立ちます。

優先度設定(Prioritization)
優先度は、対応に着手する順番を決定するための重要な指標です。これは担当者の感覚で決めるのではなく、「影響度」と「緊急度」という2つの軸を組み合わせたマトリクスに基づいて客観的に決定します。

  • 影響度(Impact):インシデントがビジネスに与える損害の大きさ。影響を受けるユーザー数、業務への支障範囲、経済的損失の可能性などを基準に「大・中・小」などで評価します。
  • 緊急度(Urgency):インシデントを解決するために要求される時間の速さ。SLA(サービスレベル合意書)で定められた目標時間や、放置した場合に影響が拡大する度合いなどを基準に「高・中・低」などで評価します。

以下は、優先度決定マトリクスの一般的な例です。

緊急度:高緊急度:中緊急度:低
影響度:大優先度:1 (最高)優先度:2 (高)優先度:3 (中)
影響度:中優先度:2 (高)優先度:3 (中)優先度:4 (低)
影響度:小優先度:3 (中)優先度:4 (低)優先度:5 (最低)

ステップ3 初期調査と診断

インシデントの優先度が決定されると、一次対応窓口であるサービスデスクが初期調査と診断を開始します。この段階の目的は、過去のナレッジや手順書を用いて、可能な限り迅速にインシデントを解決することです。

サービスデスクの担当者は、まず利用者からより詳細な状況をヒアリングし、問題の切り分けを行います。例えば、「PCの再起動」「ケーブルの再接続」「キャッシュのクリア」といった基本的なトラブルシューティングを試みます。同時に、ナレッジベースを検索して、同様の事象に対する解決策が既に存在しないかを確認します。既知の問題であれば、その手順に従って迅速に対応を進めます。

この初期調査でインシデントが解決できた場合は、ステップ5の「解決と復旧」へ進みます。解決が困難であると判断した場合は、二次対応チームが調査をスムーズに引き継げるよう、試したことや収集した情報を正確に記録し、次のエスカレーションの準備をします。

ステップ4 エスカレーション

初期調査で解決できなかったインシデントは、より専門的な知識や権限を持つチームに対応を引き継ぎます。このプロセスを「エスカレーション」と呼びます。エスカレーションには、大きく分けて2つの種類があります。

機能的エスカレーション
サービスデスク(一次サポート)では対応できない技術的に高度な問題について、専門知識を持つ担当者やチーム(二次・三次サポート)に対応を引き継ぐことです。例えば、ネットワークの問題であればネットワークチームへ、サーバーの不具合であればサーバー管理チームへ、といった形で、インシデントの分類に基づいて適切なチームへ割り当てられます。

階層的エスカレーション
インシデントの重大性が極めて高い場合や、SLAで定められた解決時間を超過する恐れがある場合など、管理職層の判断や承認が必要な時に行われます。インシデントマネージャーや上位の役職者へ報告し、リソースの追加投入や関係部署との調整といった意思決定を仰ぎます。

どのような条件で、誰に、どのようにエスカレーションを行うかというルールを事前に明確化しておくことが、対応の遅延やたらい回しを防ぎ、組織的なインシデント対応を実現するための鍵となります。

ステップ5 解決と復旧

エスカレーションを受けた担当チーム、あるいは初期調査で対応したサービスデスクが、インシデントの直接的な原因を特定し、サービスを正常な状態に戻すためのアクションを実行します。このステップの目的は、あくまで「迅速なサービス復旧」です。

具体的な解決策としては、ソフトウェアのパッチ適用、設定の変更、ハードウェアの交換、データのリストアなどが挙げられます。解決策を実施した後は、必ずサービスが正常に動作することを確認します。そして、インシデントを報告した利用者本人に、問題が解決しサービスが復旧したことを確認してもらうことが重要です。利用者の合意を得て、初めて「復旧」したと見なされます。

なお、インシデント管理における「解決」は、暫定的な回避策(ワークアラウンド)の提供も含まれます。根本原因の特定と恒久的な対策の実施は、次のフェーズである「問題管理」のプロセスで扱われるのが一般的です。

ステップ6 インシデントのクローズ

利用者がサービスの復旧を確認し、問題が解決したことに合意したら、インシデント管理プロセスは最終ステップである「クローズ」に移ります。インシデントをクローズする前に、担当者はいくつかの重要な確認作業を行います。

まず、インシデント記録の最終確認です。インシデントの分類が正しかったか、優先度は適切だったか、どのような調査を行い、最終的にどのような解決策を実施したか、といった一連の対応履歴が正確かつ詳細に記録されていることをチェックします。このクローズ前の記録の質を高めることが、組織のナレッジを蓄積し、将来のインシデント対応をより効率的・効果的にするための財産となります

すべての情報が適切に記録されていることを確認した後、担当者はインシデント管理ツール上でステータスを「クローズ(完了)」に変更します。これにより、一連のインシデント対応プロセスが正式に終了します。必要に応じて、利用者に満足度調査のアンケートを送付し、対応品質の評価をフィードバックとして収集することも、継続的なサービス改善のために有効です。

成果を出すインシデント管理体制の構築方法

インシデント管理のプロセスを定義するだけでは、インシデントへの迅速かつ効果的な対応は実現しません。プロセスを実際に動かすための「体制」を構築することが不可欠です。ここでは、属人化を防ぎ、組織として一貫した高品質な対応を可能にするための体制構築方法を具体的に解説します。

役割と責任の明確化

インシデント管理を成功させるための第一歩は、関係者の役割と責任範囲を明確に定義することです。誰が何に対して責任を持つのかを事前に定めておくことで、インシデント発生時に「誰が対応すべきか分からない」といった混乱を防ぎ、スムーズな連携を実現します。

サービスデスク(一次受付)の役割

サービスデスクは、ユーザーからの問い合わせを一元的に受け付ける窓口(SPOC: Single Point of Contact)であり、インシデント管理の最前線です。ユーザーにとっての「会社の顔」となるため、その対応品質がサービス全体の満足度を大きく左右します。

主な役割は以下の通りです。

  • インシデントの受付と正確な記録
  • 過去のナレッジを参照し、簡易的なインシデントをその場で解決する(一次解決)
  • 一次解決が困難な場合に、インシデントの適切な分類と優先度付けを行う
  • 専門知識が必要なインシデントを、後述する技術サポートチームへ正確にエスカレーションする
  • 対応状況をユーザーへ適宜報告し、クローズまでを管理する

サービスデスクの一次解決率(FCR: First Call Resolution)を高めることは、専門チームの負荷を軽減し、組織全体の生産性向上に直結します。

技術サポートチーム(二次・三次)の役割

技術サポートチームは、サービスデスクからエスカレーションされた、より専門的・技術的な調査が必要なインシデントの解決を担当します。二次サポートチームは特定の技術領域(サーバー、ネットワーク、アプリケーションなど)の専門家で構成され、三次サポートチームは製品開発者や外部ベンダーなど、最高レベルの技術知識を持つ担当者が担います。

主な役割は以下の通りです。

  • エスカレーションされたインシデントの詳細な原因調査と診断
  • 恒久的な解決策や回避策の特定と実装
  • 解決プロセスで得られた知見をナレッジベースに登録し、再利用可能な情報として蓄積する
  • インシデントの根本原因を解消するため、問題管理プロセスへ情報を提供する

技術的なボトルネックを解消し、システムの安定稼働を支える、インシデント管理における最後の砦ともいえる存在です。

インシデントマネージャーの役割

インシデントマネージャーは、個別のインシデント対応を行うのではなく、インシデント管理プロセス全体が円滑に機能するように監督・統制する責任者です。特にビジネスへの影響が大きい「重大インシデント」発生時には、司令塔として関係者を指揮し、迅速な復旧を導きます。

主な役割は以下の通りです。

  • インシデント管理プロセス全体のオーナーシップを持つ
  • 重大インシデント発生時の対応チームの招集と指揮統制
  • 関係部署や経営層への状況報告とコミュニケーションの促進
  • SLA(サービスレベル合意書)の遵守状況の監視と評価
  • 対応実績データの分析に基づき、プロセスの継続的な改善を主導する

各役割の責任範囲をテーブルで整理すると、以下のようになります。

役割主な責任範囲
サービスデスクインシデントの受付、記録、一次解決、エスカレーション、ユーザーへの報告
技術サポートチーム専門的な調査・診断、恒久的な解決策の実装、ナレッジの蓄積
インシデントマネージャープロセス全体の監視・統制、重大インシデントの指揮、継続的な改善

SLA(サービスレベル合意書)の策定

SLA(Service Level Agreement)とは、サービス提供者と利用者の間で、提供するサービスの品質レベルについて合意した内容を明文化したものです。インシデント管理においてSLAを策定することで、「いつまでに対応を開始し、いつまでに解決するのか」という目標が明確になります。

SLAは単なる努力目標ではなく、ビジネスへの影響を最小限に抑え、顧客満足度を維持するための重要な約束事です。インシデントの優先度に応じて、目標となる時間を具体的に設定することが重要です。

SLAに含めるべき主な項目は以下の通りです。

  • 対象サービス:SLAが適用されるITサービスの範囲
  • サービス提供時間:インシデント対応を受け付ける時間帯(例:平日9:00~18:00)
  • 目標応答時間:インシデントの報告を受けてから、担当者が対応に着手するまでの目標時間
  • 目標解決時間:インシデントが発生してから、サービスが復旧するまでの目標時間
  • 報告:SLAの遵守状況を報告するレポートの形式や頻度

これらの目標値は、後述する優先度マトリクスと連動させ、客観的な基準に基づいて設定することが効果的です。例えば、「優先度:高」のインシデントは「目標応答時間:15分以内、目標解決時間:4時間以内」のように定義します。

コミュニケーションルールの策定

インシデント発生時、関係者間の情報共有の遅れや錯綜は、対応の遅延や二次被害を招く大きな原因となります。誰が、いつ、誰に、何を、どのように伝えるのかを定めた明確なコミュニケーションルールを策定しておくことが極めて重要です。

策定すべきルールの具体例は以下の通りです。

  • 報告・エスカレーションルートの定義:インシデントを発見した際の報告先や、一次対応で解決できない場合のエスカレーション先と手順を明確にします。
  • 情報共有手段の標準化:インシデント管理ツール、ビジネスチャット、メールなど、状況や緊急度に応じた連絡手段を統一し、情報が分散するのを防ぎます。
  • ステークホルダーへの報告基準:影響範囲の大きい重大インシデント発生時に、ユーザー、関連部署、経営層など、報告対象者ごとに報告する内容、タイミング、手段をあらかじめ定義しておきます。
  • 会議体の設定:重大インシデント発生時の対策会議の招集ルールや、対応完了後のレビュー会議(PIR: Post Incident Review)の実施ルールなどを定めます。

効果的なコミュニケーションルールは、不確実な状況下での関係者の不安を軽減し、組織として一貫した対応を可能にするための生命線となります。これにより、憶測による混乱を防ぎ、全員が同じ情報に基づいて行動できるようになります。

インシデント管理を効果的に運用する5つのポイント

インシデント管理を効果的に運用する5つのポイント 1 優先度マトリクスの定義 「緊急度×影響範囲」で基準を明確化。 限られたリソースを効率的に配分し、 迅速な判断を可能にする。 2 ナレッジベースの整備 対応履歴やFAQを蓄積・共有する。 属人化を防ぎ、誰が対応しても 一定の品質を保てるようにする。 3 レポートとKPI分析 MTTRや解決率などを定期的に測定。 感覚ではなく客観的なデータに基づき、 プロセスの課題を特定する。 4 継続的なプロセスの改善 PDCAサイクルを回して常に見直す。 ビジネス環境の変化や技術の進化に 合わせて運用を最適化する。 5 管理ツールの導入 情報を一元管理し、プロセスを自動化。 対応漏れの防止、情報共有の円滑化、 レポーティング工数の削減を実現。

インシデント管理の体制を構築しただけで満足してはいけません。ビジネスへの影響を最小限に抑えるという目的を達成するためには、構築したプロセスを日々効果的に運用し、継続的に改善していく必要があります。ここでは、成果を出すためのインシデント管理運用における5つの重要なポイントを解説します。

優先度付けのマトリクスを定義する

発生するすべてのインシデントに同じリソースを割くことは非効率です。ビジネスインパクトを最小限に抑えつつ、限られたリソースを効率的に配分するためには、客観的な基準に基づいた優先度付けが不可欠です。そのために、「緊急度(ビジネスに影響が出るまでの時間)」と「影響範囲(影響を受けるユーザー数やシステムの重要度)」の2軸を組み合わせたマトリクスを事前に定義しておきましょう。

このマトリクスを定義し、全関係者で共有することで、担当者の主観に頼ることなく、迅速かつ適切な優先度判断が可能になります。

緊急度:高
(即時対応が必要)
緊急度:中
(24時間以内の対応が必要)
緊急度:低
(計画的な対応が可能)
影響範囲:大
(基幹システム停止、全社的な影響)
優先度:最高(最優先で即時対応)優先度:高(営業時間内に緊急対応)優先度:中(次営業日に対応)
影響範囲:中
(一部門・複数名に影響)
優先度:高(営業時間内に緊急対応)優先度:中(次営業日に対応)優先度:低(計画的に対応)
影響範囲:小
(個人・軽微な機能不全)
優先度:中(次営業日に対応)優先度:低(計画的に対応)優先度:低(計画的に対応)

ナレッジベースを整備し活用する

インシデント対応の経験や知識が特定の担当者に集中してしまう「属人化」は、対応の遅延や品質のばらつきを生む大きな原因です。この問題を解決するために、ナレッジベースの整備と活用が極めて重要になります。ナレッジベースとは、過去のインシデント対応履歴や解決策、よくある質問(FAQ)などを集約した情報データベースのことです。

ナレッジベースを整備することで、インシデント対応の属人化を防ぎ、組織全体の対応品質を標準化することが可能になります。具体的には、以下のようなメリットが期待できます。

  • 対応の迅速化:過去の類似インシデントを検索することで、原因究明や解決策の発見にかかる時間を大幅に短縮できます。
  • 対応品質の均一化:誰が対応しても一定レベルの品質を担保でき、初回コール解決率(FCR)の向上に繋がります。
  • 教育コストの削減:新任担当者でもナレッジベースを参照しながら自己解決できる範囲が広がり、教育担当者の負担を軽減します。

効果的なナレッジベースを運用するためには、インシデントクローズ時に対応履歴を記録するだけでなく、その情報を誰もが検索・理解しやすい形式に整理し、定期的に更新していく文化を醸成することが大切です。

定期的なレポートとKPI分析を行う

インシデント管理プロセスが健全に機能しているかを評価し、改善点を見つけ出すためには、定期的なレポーティングとKPI(重要業績評価指標)の分析が欠かせません。感覚的な評価ではなく、客観的なデータに基づいてプロセスのボトルネックを特定し、改善活動に繋げることが目的です。

インシデント管理で注視すべき代表的なKPIには、以下のようなものがあります。

  • 平均解決時間(MTTR):インシデント発生から解決までにかかった時間の平均値。プロセスの効率性を示す重要な指標です。
  • 初回コール解決率(FCR):サービスデスクが一次対応でインシデントを解決できた割合。サービスデスクのスキルとナレッジベースの成熟度を測ります。
  • エスカレーション率:一次対応で解決できず、二次・三次サポートへ引き継がれたインシデントの割合。この率が高い場合、一次対応のスキルや権限に問題がある可能性があります。
  • SLA遵守率:事前に定めたSLA(サービスレベル合意書)の目標時間内にインシデントを解決できた割合。顧客満足度に直結する指標です。
  • インシデント発生件数:カテゴリ別、システム別などで件数を分析し、特定の箇所に問題が集中していないかを確認します。

これらのKPIを定期的に測定・分析し、目標値との乖離や傾向を把握することで、具体的な改善アクション(例:特定カテゴリのナレッジ拡充、担当者のトレーニング強化など)に繋げることができます。

継続的なプロセスの改善(CSI)

ITILでは、CSI(Continual Service Improvement:継続的サービス改善)という考え方が重視されています。インシデント管理も例外ではなく、一度構築したプロセスを定期的に見直し、変化するビジネス環境や技術に適応させていくことが、長期的な成功の鍵となります。

具体的には、PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Act)を回していくことが有効です。

  1. Plan(計画):KPI分析や担当者からのフィードバックを基に、プロセスの課題を特定し、改善目標と計画を立てます。
  2. Do(実行):計画に沿って、プロセスの変更、ツールの設定見直し、マニュアルの改訂などを実行します。
  3. Check(評価):実行した施策が、KPIにどのような影響を与えたかを測定・評価します。
  4. Act(改善):評価結果を基に、改善策を本格的に展開するか、あるいは新たな課題に対する次の計画を立てます。

特に、ビジネスへの影響が大きかった重大インシデント発生後には、関係者を集めてレビュー会議(PIR: Post Incident Review)を実施しましょう。原因の根本的な分析、対応プロセスの問題点の洗い出し、再発防止策の検討を行うことで、プロセスはより強固なものになります。

適切なインシデント管理ツールを導入する

Excelやメールベースでのインシデント管理には限界があります。対応漏れや二重対応といったヒューマンエラーが発生しやすく、情報共有もスムーズに行えません。また、正確なKPIを測定するためのデータ収集にも多大な工数がかかります。そこで、効果的な運用に不可欠となるのが、インシデント管理ツールです。

インシデント管理ツールを導入する最大の目的は、インシデントに関する全ての情報を一元管理し、対応プロセスを自動化・可視化することです。これにより、以下のようなメリットが得られます。

  • 対応漏れ・遅延の防止:インシデントが自動で起票され、担当者やステータスが明確になるため、対応漏れを防ぎます。SLAに基づいたアラート機能も有効です。
  • 情報共有の円滑化:担当者間の引き継ぎや進捗確認がツール上で完結し、コミュニケーションコストを削減します。
  • プロセスの標準化:ITILに準拠したワークフローに沿って対応を進めることで、対応品質を標準化できます。
  • レポーティングの自動化:KPIの算出やレポート作成が自動化され、分析や改善活動に注力できます。

ツールはあくまで手段ですが、効果的なインシデント管理運用を実現するための強力な土台となります。自社のプロセスや規模に合ったツールを選定することが重要です。

インシデント管理を効率化するツールの選び方

インシデント管理のプロセスを確立しても、Excelやスプレッドシート、メールでの手動管理には限界があります。対応漏れや遅延、情報共有の属人化といった課題は、ビジネスへの影響を深刻化させる可能性があります。そこで不可欠となるのが、インシデント管理を専門とする「ITサービスマネジメント(ITSM)ツール」の導入です。

ツールを導入することで、インシデント対応プロセスの標準化、自動化、そして可視化が実現し、サービスデスクや担当者の負担を大幅に軽減できます。ここでは、数あるツールの中から自社に最適なものを選び抜くための比較ポイントと、具体的なツール例を紹介します。

ツール選定で失敗しないための比較ポイント

インシデント管理ツール選定で後悔しないためには、機能の豊富さだけでなく、自社の運用体制や規模、将来的な拡張性など、多角的な視点から比較検討することが重要です。以下の比較ポイントを参考に、自社の要件を整理してみましょう。

比較ポイント確認すべき内容
ITILへの準拠度ITILで定義されたインシデント管理プロセス(記録、分類、優先度設定、エスカレーション、解決、クローズ)を標準機能で網羅しているか。問題管理や変更管理など、他のITILプロセスとの連携はスムーズかを確認します。
機能の網羅性と柔軟性インシデントの起票フォーム、ワークフローの自動化、SLA(サービスレベル合意書)の計測・警告、ナレッジベースの構築・検索、レポート・ダッシュボード作成など、必要な機能が揃っているか。また、自社の業務に合わせて入力項目やプロセスを柔軟にカスタマイズできるかは重要なポイントです。
操作性(UI/UX)IT担当者だけでなく、インシデントを報告する一般ユーザーにとっても直感的で分かりやすいインターフェースか。デモや無料トライアルを活用し、実際の操作感を確かめることを推奨します。
外部ツールとの連携性ビジネスチャットツール(Microsoft Teams, Slackなど)やメール、監視ツール(Zabbix, Datadogなど)と連携できるか。API連携の可否や設定の容易さも確認しましょう。通知の自動化やインシデントの自動起票が可能になれば、対応の初動を大幅に早めることができます。
提供形態とコスト自社サーバーで運用する「オンプレミス型」か、ベンダーが提供する環境を利用する「クラウド(SaaS)型」か。初期費用、月額(年額)料金、ライセンス体系(ユーザー数課金など)を含めたトータルコストを比較検討します。
サポート体制導入時の設定支援やトレーニング、運用開始後の問い合わせ対応など、ベンダーのサポート体制は充実しているか。特に、日本語でのサポートが迅速に受けられるかは、国内企業にとって重要な選定基準となります。

ITIL準拠のおすすめツール「SHERPA SUITE」の紹介

インシデント管理ツールの選定において、特に「ITIL準拠」と「日本企業における運用のしやすさ」を重視する場合、ITサービスマネジメントツール「SHERPA SUITE(シェルパスイート)」が有力な選択肢となります。

SHERPA SUITEは、ITIL v3およびv4に準拠したベストプラクティスを凝縮した純国産のツールです。インシデント管理はもちろん、問題管理、変更管理、構成管理といったITSMの中核プロセスを統合的に管理できる点が大きな特長です。

SHERPA SUITEが選ばれる理由

  • ITILプロセスを標準搭載
    ITILに準拠したプロセスがテンプレートとして用意されているため、ツール導入と同時に、ITILに基づいた高度なインシデント管理体制をスムーズに構築できます。
  • ノーコードによる高いカスタマイズ性
    プログラミング知識がなくても、ドラッグ&ドロップなどの直感的な操作で入力フォームやワークフローを自由に変更できます。日本企業特有の承認フローや業務プロセスにも柔軟に対応可能です。
  • 優れた操作性と可視化
    誰にでも分かりやすいシンプルな画面設計で、IT部門だけでなく全従業員が迷わず利用できます。また、蓄積されたデータはリアルタイムでダッシュボードに反映され、対応状況やKPIの達成度を一目で把握できます。
  • 安心の国産ツール・手厚いサポート
    純国産ツールであるため、日本の商習慣に精通したベンダーによる手厚い導入支援や運用サポートを日本語で受けられます。初めてツールを導入する企業でも安心して利用を開始できます。

インシデント管理の属人化を防ぎ、組織全体でサービス品質の向上を目指すなら、SHERPA SUITEのようなITIL準拠の統合管理ツールの導入を検討してみてはいかがでしょうか。

まとめ

本記事では、ITILに準拠したインシデント管理の定義から、体制構築、効果的な運用方法までを網羅的に解説しました。インシデント管理は、ITサービスの予期せぬ中断から迅速に復旧させ、ビジネスへの影響を最小限に抑えるために不可欠なプロセスです。安定したサービス提供は、顧客満足度の向上と事業機会の損失防止に直結します。

成功の鍵は、ITILのプロセスフローに沿ってインシデントを管理し、サービスデスクや技術サポートチームといった役割と責任を明確にした体制を構築することにあります。さらに、SLAを策定し、ナレッジベースの活用やKPIに基づく継続的な改善を行うことで、インシデント対応の品質と速度は飛躍的に向上します。

これらの活動を効率化し、属人化を防ぐためには、「SHERPA SUITE」のような適切なインシデント管理ツールの導入が極めて有効です。本ガイドを参考に、自社のインシデント管理体制を見直し、ビジネスの継続性を高める第一歩を踏み出しましょう。

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SHERPA SUITE

詳細情報

〒108-0073東京都港区三田1-2-22 東洋ビル

URL:https://www.sherpasuite.net/

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この記事を書いた人

企業戦略ナビ編集部は、法人分野に関する専門的で正確な情報を提供する編集チームです。読者の皆さまに役立つ情報をお届けできるよう日々情報収集と発信に取り組んでいます。
【運営会社】株式会社ウェブサークル
【最終更新日】2025年12月8日

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