「新リース会計基準」への対応は、もはや待ったなしの経営課題です。これまでオフバランス処理が可能だったオペレーティングリースが原則として資産・負債計上されるため、多くの企業で財務指標が悪化する可能性がありますが、何から手をつければ良いか分からず準備が遅れていませんか?本記事では、新基準への移行を乗り切るために今すぐ着手すべき「リース契約の網羅的把握」「会計方針の策定」「業務・システムの再構築」という3つの対策を、具体的な手順に沿って徹底解説します。この記事を読めば、自社への影響を正確に把握し、スムーズな移行に向けた具体的なアクションプランを明確に描けるようになります。
はじめに 新リース会計基準への対応は待ったなし
企業の経理・財務担当者の皆様、「新リース会計基準」への対応準備は進んでいますでしょうか。国際会計基準(IFRS)や米国会計基準の動向を踏まえ、日本の企業会計基準委員会(ASBJ)は2023年5月に公開草案「リースに関する会計基準(案)」を公表しました。これにより、日本のリース会計は大きな変革期を迎えています。
この新基準における最大の変更点は、これまで費用処理(オフバランス)が認められていたオペレーティング・リースについても、原則として資産・負債として貸借対照表に計上(オンバランス化)しなければならなくなることです。これにより、多くの企業で財務諸表に与えるインパクトは計り知れません。
具体的には、総資産が膨らむことで自己資本比率などの財務指標が悪化する可能性があります。また、対象となるリース契約の網羅的な把握や、使用権資産・リース負債の複雑な計算など、経理部門の業務負荷が大幅に増大することも避けられません。
新旧のリース会計基準における最も重要な違いを、以下の表で確認しておきましょう。
| ファイナンス・リース | オペレーティング・リース | |
|---|---|---|
| 従来基準 | オンバランス(資産・負債計上) | オフバランス(費用処理) |
| 新リース会計基準 | オンバランス(資産・負債計上) | 原則オンバランス(資産・負債計上) |
この新リース会計基準は、2026年4月1日以後開始する事業年度の期首からの強制適用が予定されており、対応までの時間は決して長くありません。影響額の試算や業務プロセスの見直し、システムの導入検討など、準備には相応の期間を要するため、まさに「待ったなし」の状況です。
本記事では、新リース会計基準の適用に向けて「何から手をつければよいかわからない」とお悩みの担当者様のために、今すぐ着手すべき具体的な対策を3つのステップで分かりやすく解説します。この記事を読めば、新基準への対応に向けた明確な道筋が見えてくるはずです。
今すぐ着手すべき新リース会計基準への3つの対策
新リース会計基準の適用開始は目前に迫っており、対応はもはや待ったなしの状況です。特に、これまでオペレーティングリースを多用してきた企業にとっては、財務諸表への影響が大きくなる可能性があります。しかし、早期に準備を進めることで、影響を最小限に抑え、スムーズな移行を実現できます。ここでは、企業が今すぐ着手すべき具体的な3つの対策を詳細に解説します。
対策1 リース契約の網羅的把握と管理体制の構築
新基準対応の第一歩は、自社が締結している全てのリース契約を正確に把握することです。これまで会計処理の対象外だった契約も含まれるため、社内に散在する契約情報を洗い出し、一元的に管理する体制を構築することが急務となります。
対象となる契約の洗い出し
新リース会計基準では、従来のオペレーティングリースも原則として資産・負債として計上する必要があります。そのため、まずは経理部門だけでなく、各事業部門や総務部門が個別に管理している契約も含め、全社的な調査を行わなければなりません。
注意すべきは、「リース」という名称の契約だけが対象ではない点です。賃貸借契約やレンタル契約、特定の資産の使用権が実質的に移転しているサービス契約なども、新基準における「リース」に該当する可能性があります。契約書の内容を精査し、資産を特定できるか、その資産の使用により経済的便益のほとんどを享受できるか、といった実質的な観点から「リース」を識別するプロセスが不可欠です。具体的には、以下のような資産に関する契約が対象となり得ます。
- PC、サーバー、複合機などのIT機器
- 社用車、トラック、フォークリフトなどの車両
- オフィス、店舗、倉庫などの不動産
- 建設機械や製造設備
- 特定のソフトウェアライセンス
契約情報のデータ化と一元管理
洗い出した契約情報は、Excelやスプレッドシート、あるいは専門のリース管理システムを用いてデータ化し、一元管理する必要があります。これにより、全社的な影響額の試算や、会計処理の効率化、内部統制の強化につながります。管理台帳には、少なくとも以下の項目を盛り込むことが推奨されます。
| 管理項目 | 内容とポイント |
|---|---|
| 契約基本情報 | 契約番号、契約相手先(リース会社名)、契約締結日、資産の名称・型番など |
| リース期間 | リース開始日、リース終了日。解約不能期間を正確に把握することが重要です。 |
| リース料 | 月額リース料、支払サイクル(毎月、毎年など)、支払総額。変動リース料の有無も確認します。 |
| オプション情報 | 契約を延長する「更新オプション」や、割安で購入する「購入オプション」の有無と条件。行使の合理的な確実性を評価する必要があります。 |
| その他 | 資産の維持管理費用がリース料に含まれているか、解約条件、原状回復義務の有無など、計算に必要な情報を整理します。 |
対策2 新会計方針の策定と影響額のシミュレーション
契約情報の整理が完了したら、次はその情報を基に自社の会計方針を具体的に定め、新基準が財務諸表に与える影響をシミュレーションします。事前の影響額試算は、経営層への報告やステークホルダーへの説明責任を果たす上で極めて重要です。
使用権資産とリース負債の計算方法
新基準の核心は、「使用権資産」と「リース負債」の計上です。これらの計算は複雑であり、特に割引率の設定が計算結果に大きく影響します。原則的な計算方法は以下の通りです。
- リース負債の計算
リース期間にわたって支払うリース料総額(未払い分)を、現在価値に割り引いて計算します。割引計算に用いる「割引率」は、原則としてリース契約で定められた利率(貸手の計算利子率)を使用しますが、これが不明な場合は、自社が同様の資産を同様の期間、同様の担保で購入するために必要となるであろう資金調達の利率(借手の追加借入利子率)を使用します。 - 使用権資産の計算
上記で算出したリース負債の額を基礎とし、それに敷金や保証金、前払いしたリース料、契約に直接関連して発生した付随費用(仲介手数料など)を加算し、資産除去債務などを調整して算出します。
特に割引率の設定は専門的な判断を要するため、監査法人や専門家と協議しながら慎重に進める必要があります。
短期リースや少額リースの取り扱い決定
新リース会計基準では、すべてのリースを資産計上する原則の一方で、実務上の負担を軽減するための簡便的な処理(例外処理)も認められています。
- 短期リース:リース期間が12ヶ月以内のリース。資産計上せず、従来通り支払リース料を費用として処理できます。ただし、購入オプションが付いている場合は適用できません。
- 少額リース:リース資産の価額が少額であるリース。こちらも資産計上せず、費用処理が可能です。IFRSでは例として5,000米ドルという金額が示されていますが、日本基準では明確な金額基準はありません。企業が自社の事業規模や資産の性質に応じて「重要性」の観点から金額基準を会計方針として設定する必要があります。
これらの簡便法を適用するかどうか、また、少額リースの金額基準をいくらに設定するかは、企業の任意です。業務負荷の軽減効果と財務諸表への影響のバランスを考慮し、自社の方針を明確に定めておくことが、一貫性のある会計処理を行う上で不可欠です。
対策3 業務プロセスとシステムの再構築
新しい会計基準に対応するためには、これまでの経理業務のやり方を根本から見直す必要があります。契約管理から会計処理、開示資料の作成に至るまで、一連の業務プロセスとそれを支えるITシステムを再構築することが最後の重要な対策となります。
新基準に準拠した業務フローの設計
新基準の適用により、経理部門だけで対応が完結することはなくなります。資産を実際に利用する事業部門や、契約を締結する法務・購買部門との連携が不可欠です。以下のような新しい業務フローの設計が求められます。
- 契約締結時の判定フロー:新たに契約を締結する際に、それが新基準における「リース」に該当するかどうかを判断するチェックプロセスを導入します。
- 情報連携フロー:リースに該当すると判断された契約について、リース負債や使用権資産の計算に必要な情報(リース期間、リース料、各種オプションなど)を、事業部門から経理部門へ遅滞なく連携する仕組みを構築します。
- 資産管理フロー:計上した使用権資産について、減価償却や減損処理を適切に行うための管理プロセスを定めます。
これらのフローを明確に文書化し、関連部署への周知徹底を図ることで、内部統制の強化にもつながります。
プロシップなどリース管理システムの導入検討
管理対象となるリース契約が数十件、数百件と多数にのぼる場合、Excelやスプレッドシートによる手作業での管理には限界があります。入力ミスや計算誤り、バージョン管理の煩雑さといったリスクが常に付きまといます。
そこで、複雑な割引計算や償却計算、契約情報の変更管理などを自動化できるリース管理システムの導入が極めて有効な解決策となります。株式会社プロシップが提供する「ProPlus」をはじめ、新リース会計基準に対応した専門システムが複数存在します。システムを導入することで、以下のようなメリットが期待できます。
- 計算業務の自動化による業務効率の大幅な向上
- ヒューマンエラーの削減と会計処理の正確性向上
- 契約情報の一元管理によるガバナンス強化
- 仕訳データ作成や開示資料作成の迅速化
システム選定にあたっては、新基準への完全対応はもちろんのこと、自社の既存の会計システムとの連携性や、導入後のサポート体制などを総合的に評価し、自社に最適なソリューションを選択することが重要です。
改めて確認 新リース会計基準の概要と変更点
すでに対策の重要性についてはご理解いただけたかと思いますが、効果的な準備を進めるためには、新リース会計基準そのものへの正確な理解が不可欠です。ここでは、新基準の基本的な考え方と、従来基準からの最も大きな変更点について、改めて詳しく解説します。
新リース会計基準とは何か
新リース会計基準とは、国際的な会計基準であるIFRS第16号「リース」や米国会計基準ASC842「リース」との整合性(コンバージェンス)を図る目的で、日本の企業会計基準委員会(ASBJ)が公表した新しい会計基準(公開草案)のことです。これまで日本の会計基準では、リース取引を「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」に分類し、異なる会計処理を行ってきました。
しかし、新基準の最も重要なポイントは、原則としてすべてのリース契約を資産・負債として貸借対照表(B/S)に計上する「単一の会計処理モデル」を採用する点にあります。これは、これまで費用処理のみで済んでいた多くのリース契約が「オンバランス化」されることを意味します。この変更は、投資家が企業の財政状態をより正確に把握し、国際的な企業比較を容易にすることを目的としています。
従来基準との比較 オペレーティングリースの扱い
新リース会計基準がもたらす最大の変化は、「オペレーティング・リース」の会計処理にあります。従来基準では、リース期間が短く、リース料総額も少額になることが多いオペレーティング・リースは、資産計上の必要がなく、支払ったリース料を費用として損益計算書(P/L)に計上するだけで済みました。これを「オフバランス取引」と呼びます。
しかし、新基準では、このファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区別が原則として廃止されます。これにより、これまでオフバランス処理されてきたPC、複合機、社用車、さらにはオフィスの賃貸借契約といった多くの契約が、新たにB/S上で「使用権資産」という資産と「リース負債」という負債として計上対象となります。両者の違いを下記の表で確認しましょう。
| リース区分 | 従来基準の会計処理 | 新リース会計基準の会計処理 |
|---|---|---|
| ファイナンス・リース | 【B/S】リース資産・リース債務を計上 【P/L】減価償却費・支払利息を計上 | (変更なし) 【B/S】使用権資産・リース負債を計上 【P/L】減価償却費・支払利息を計上 |
| オペレーティング・リース | 【B/S】計上なし(オフバランス) 【P/L】支払リース料を費用計上 | (大きな変更点) 【B/S】使用権資産・リース負債を計上 【P/L】減価償却費・支払利息を計上 |
このように、新基準の適用によって、これまでB/Sに現れていなかったオペレーティング・リースが資産・負債として表面化します。ただし、すべてのリースにこの原則が適用されるわけではなく、実務上の負担を考慮し、「短期リース(リース期間12か月以内)」や「少額リース(重要性の低いリース)」については、従来通り費用処理を継続することが認められる見込みです。どの契約をこの例外規定の対象とするかは、企業が会計方針として決定する必要があります。
新リース会計基準が企業に与える具体的な影響
新リース会計基準の適用は、単なる会計処理の変更にとどまりません。これまで費用として処理されてきたオペレーティングリースが、原則としてすべて貸借対照表(バランスシート)に資産・負債として計上される「オンバランス化」が義務付けられます。これにより、企業の財務諸表や経営指標、さらには経理部門の業務プロセスにまで多岐にわたる具体的な影響が及びます。
財務健全性を示す指標へのインパクト
新基準の最も大きな影響は、財務諸表の見え方が大きく変わる点です。特に、これまでオフバランスであったオペレーティングリース契約が「使用権資産」および「リース負債」として計上されることで、総資産と総負債が同時に増加します。この結果、企業の財務健全性を示す主要な経営指標に次のようなインパクトを与える可能性があります。
| 財務指標 | 変動の傾向 | 変動の理由 |
|---|---|---|
| 自己資本比率 | 悪化(低下) | 自己資本額は変わらず、分母である総資産が増加するため。 |
| 負債比率 | 悪化(上昇) | 自己資本額は変わらず、リース負債の計上により負債総額が増加するため。 |
| 総資産利益率(ROA) | 悪化(低下) | 利益額への影響は軽微な一方、分母である総資産が増加するため。 |
| EBITDA (利払前・税引前・減価償却前利益) | 改善(増加) | 従来の支払リース料(営業費用)が、減価償却費と支払利息(営業外費用)に分解されるため、計算上、EBITDAは増加する傾向にある。 |
これらの指標変動は、金融機関との融資契約における財務制限条項(コベナンツ)に抵触するリスクや、株主・投資家からの企業評価に影響を及ぼす可能性があります。そのため、自社への影響額を事前にシミュレーションし、必要に応じて金融機関や投資家へ丁寧な説明準備を進めておくことが極めて重要です。
経理部門の業務負荷増大
新リース会計基準への対応は、経理部門をはじめとする管理部門の業務負荷を大幅に増大させます。これまで単純な費用処理で済んでいたオペレーティングリースについても、複雑な会計処理と厳格な管理が求められるようになります。
具体的には、以下のような新たな業務が発生します。
- すべての契約の中からリースに該当するものを網羅的に洗い出し、識別する業務
- リース期間やリース料、割引率などを基に「使用権資産」と「リース負債」の現在価値を算出する業務
- 決算ごとに減価償却費と支払利息を計算し、仕訳を計上する業務
- 契約内容の変更や重要な事象が発生した際の再測定・評価業務
- 財務諸表への注記情報の作成・開示業務
特に、これまでオフバランス処理で済んでいた店舗や営業所、複合機、社用車など、膨大な数のオペレーティングリースを抱える企業ほど、その影響は甚大です。これらの複雑な計算や多数の契約情報をExcelなどで手作業管理するには限界があり、ヒューマンエラーや業務の属人化を招くリスクが非常に高まります。監査対応の工数増大も避けられないでしょう。このため、会計処理の変更だけでなく、契約管理から会計処理までを一貫して行う業務プロセスの再構築が不可欠となります。
まとめ
本記事では、新リース会計基準が企業に与える影響と、今すぐ準備すべき対策について解説しました。新基準の最も大きな変更点は、これまでオフバランス処理が可能だったオペレーティングリースが原則として資産・負債としてオンバランス計上されることです。この変更は、企業の総資産を増加させ、自己資本比率などの財務指標に大きなインパクトを与える可能性があります。
この変化へ的確に対応するためには、結論として「リース契約の網羅的把握と管理体制の構築」「新会計方針の策定と影響額のシミュレーション」「業務プロセスとシステムの再構築」という3つの対策に早期に着手することが不可欠です。特に、対象契約の洗い出しや影響額の試算には相当な時間を要するため、適用開始を待つのではなく、今すぐ行動を起こすことが求められます。
新基準への対応は、経理部門の業務負荷を増大させる一方で、これまで十分に管理されてこなかったリース契約を可視化し、全社的な資産管理体制を強化する好機でもあります。プロシップのような専門システムの活用も視野に入れ、計画的に準備を進めることで、円滑な移行を実現しましょう。
